フィールドワークの真骨頂 |
ただこの本の面白さは著者がそんなセラピストを鼻で笑うのではなく、そんな「トンデモ」セラピーでもよくなる人がいることを真剣に捉え、その事実を自らの専門領域である臨床心理に照らし返しながら、「心の治療とは何なのか?」を真剣に問い続けること。
いっけん意味のわからない他者の生から自らの生を問い直す著者の姿勢こそ、文化人類学的なフィールドワークの醍醐味で、それが著者のときどきの感情を交えながら、せきららにでも面白く記される。
フィールドワーク初心者の学生のテキストとしても使えるのではないかと思ったし、意味不明な日本人のあり方からアメリカ人のあり方を問い直した、ルース・ベネディクトの菊と刀 (講談社学術文庫)も想起させた。
研究者にしかわからないような難解な学術書にもできたはずなのに、それを誰にでも読めるようなエッセイ調に書き下し、自らも笑いのネタとして登場させてしまうところに、著者の謙虚で暖かな人柄が感じられる。
「こんなセラピストがいるの!?」という表層的に楽しむだけの読みもできるし、「治すとは何か?」「『正当』な医学とは何か?」といった本質的な問いに迫る読み方もできる良著。
いっけんよくわからないいかがわしいものと、いっけんよくわかって正しく見えるものは実はつながっている。
春休みの課題図書としてふさわしい一冊でした。